日本原産で三角耳のくるんと丸まったしっぽが特徴的な柴犬は丸みのある「たぬき顔」で人気の犬種です。柴犬は古くから日本で猟犬や番犬として活躍しており、昔の名残が濃いキリっとした顔立ちの「キツネ顔」タイプもいたりするようです。柴犬、秋田犬、紀州犬、四国犬、北海道犬、甲斐犬の6種の日本犬の中では柴犬が最も多く飼育されており80%以上とも言われています。柴犬は室外で飼育されていることも多く長生きの犬種として知られていますが、気を付けたい病気について紹介します。
目次
柴犬がかかりやすい病気
柴犬の平均寿命は12~15歳と言われています。平均寿命でみると長寿な犬種と言えるでしょう。20歳を超えるような長寿の柴犬もいるようです。長寿な犬種であるという事は病気にも強く体が丈夫な犬種だとも言えますが、柴犬も生きている動物ですからケガや病気には気を付けなければいけません。飼い主は柴犬のかかりやすい病気に注意して毎日の健康管理に気を付けてあげましょう。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、柴犬がかかりやすい病気で最も多いとされている疾病です。生後6ヶ月~3歳で発症することが多く遺伝的な要素に関与があるとも考えられています。柴犬に限らず、アトピー性皮膚炎の犬の症状は、人が患うアトピー性皮膚炎と同様に基礎疾患になります。愛犬にアトピー性皮膚炎の症状があると分かれば長期的なケアが必要になるでしょう。
【原因】
アレルギーを引き起こす原因物質である「アレルゲン」を摂取したり接触したりすることでアレルギー症状が出てしまう疾病です。本来ならば体に害のないものに対して過剰に免疫が働くことで体に「アレルギー反応」として症状が出てしまいます。
【症状】
とにかく体を痒がります。特に指の間やマズル、目の周り、お腹や脇の下、肛門周辺などに症状が出やすいです。お腹周りの被毛が薄い箇所に赤みや発疹が出ており、自分の後ろ足で掻いたり、体を床にこすりつけたり、家具の角にこすりつけて搔くようなしぐさをしていることがあります。指の間をしきりに舐めているような場合も注意しましょう。掻き傷や舐めてベトベトになった指の間からばい菌や細菌、カビが繁殖し症状が悪化することも多いです。
【治療】
アトピー性皮膚炎は愛犬の体質が影響することも多く、痒みのコントロールが主になります。犬は人のように痒みがあっても掻くことを我慢したり、搔かないように努力したりすることがありません。掻くことで症状が悪化しないように治療薬の投与を行い症状の緩和と治療を行います。症状の状態からかかりつけの動物病院で治療について相談し治療方針について決めていきます。薬の投与など家でのケアが必要になる事もあるでしょう。
【予防】
症状の原因になっているアレルギー物質が特定できているのではればその物質を避けることが重要です。愛犬の体を清潔に保つことや室内飼育であれば愛犬の部屋をこまめに掃除すること、愛犬が使う毛布やおもちゃなどを清潔に保つことも有効です。定期的なブラッシングやシャンプー、散歩後のケアなどに気を付けることでアトピーの症状を発症しないように気を使ってあげましょう。愛犬の体調が万全でない時、夏場の暑い時や冬場の乾燥シーズンなど季節によっても発症しやすいです。愛犬が体を痒がっていないかこまめに確認し異変があれば早めに対処してあげるようにしましょう。
アレルギー性皮膚炎
犬のアレルギー性皮膚炎も人のアレルギー性皮膚炎と同じく食べ物や花粉、ノミやダニ、ハウスダストなどが原因で起こる皮膚疾患です。柴犬に限らず、アレルギー性皮膚炎を発症する犬は多いです。
【原因】
アトピー性皮膚炎と同じです。
【症状】
- 顔や体の痒みで掻いたり、噛んだり、舐めたり、痒い場所を床にこすりつけるといった行動をとります。掻いたり、舐めたりすることによって掻き傷ができたり、舐めることで雑菌の繁殖原因となったりしてしまいます。
- 皮膚の炎症
- 皮膚発疹
- フケやかさぶたがある
- 被毛の状態が悪い
- 下痢
- 食物アレルギーでは嘔吐を伴う場合もある
【治療/予防】
アレルギーの治療は原因を特定し治療法を動物病院の獣医師と相談して対処しましょう。主なアレルギー原因について紹介します。
アレルギー原因 | 治療法 | 予防法 |
---|---|---|
食物アレルギー | アレルギーの原因となる食物を特定し食べさせない。アレルギーの原因となる食物を食べている限り薬の投与を行っても症状をなくすことは出来ないため原因となる食物を食べさせないことが重要です。 | 与えるフード選びに気を付けましょう。 |
ノミ・ダニ | 動物病院でノミ・ダニの駆除を行ってもらいいましょう。 | ノミ・ダニの予防薬を定期的に行いましょう。室内飼育の場合は掃除をこまめに行うことなども効果的です。 |
マラセチア皮膚炎 | マラセチアは健康な皮膚にも生息している常在菌のため、抗真菌薬の投与でマラセチアの数を減らします。 | 定期的なスキンケア |
柴犬のような日本犬は食物アレルギーの症状が出やすいと言われています。ドッグフードは犬に必要な栄養バランスが整った犬の総合栄養食とも言われますが、ドッグフードにはさまざまな原材料が含まれています。フード選びは原材料にも注意して選択してあげるとよいでしょう。フードを変えた際には排泄物や被毛の状態、皮膚に異常が出ていないかなど確認してあげるようにしましょう。
外耳炎
アトピーやアレルギーが多い柴犬は外耳炎になりやすい犬種です。
【原因】
柴犬はアトピー性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎になりやすい犬種のため外耳炎になる事も多く外耳炎の原因もアレルギーやアトピーと同じです。マラセチアが原因で外耳炎を発症している柴犬も多いようです。
【症状】
- 頭を振る
- 耳を掻く
- 耳の皮膚が赤く腫れている
- 耳の皮膚に湿疹ができている
- 耳を触ると痛がる
- 耳ダレがみられる
- 耳を痒がっている
- 耳垢が黒い
- 耳から悪臭がする
【治療】
アトピーやアレルギー性皮膚炎が原因の場合は、アレルギーに対する治療を行います。外耳炎の症状に合わせて点耳薬の投与を行い、耳を清潔に保つことが大切になります。ただし、外耳炎はアトピーやアレルギーだけが原因とは限りません。動物病院で診察を受け適切な判断に沿った治療法を選択しましょう。
【予防】
アトピーやアレルギーが原因の場合は、その原因となる物質を避ける事が重要となります。予防法はアトピー性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎と同様です。いずれにしても飼い主が定期的に愛犬の耳のケアを行い、清潔に保つことが大切です。
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膿皮症
膿皮症とは、細菌感染による皮膚の化膿性病変です。免疫力の低下や皮膚の上の細菌叢のバランスが崩れることなどが原因で、皮膚で細菌が繁殖し症状が発症する疾病です。遺伝的な要素も関係しており、アトピー性皮膚炎を患っている犬が発症しやすく柴犬に多い病気です。膿皮症の症状は、皮膚に膿疱と呼ばれる膿が貯留し出来た水泡やフケ、円形の脱毛、かさぶたがみられます。
膿皮症の治療法も症状が比較的軽い場合はスキンケアで皮膚を清潔に保つ事が大切になります。シャンプーや抗菌作用のある外用薬を用いて状態の改善を目指していきます。症状が重い場合は内服薬の服用などで治療を行う場合もあります。愛犬に膿皮症の症状が見られる場合も症状の重さを動物病院の獣医師と相談し愛犬に合った対策を行っていくようにしましょう。
膝蓋骨脱臼(パテラ)
小型犬に多い病気の一つである膝蓋骨脱臼(パテラ)は、柴犬もよく発症すると言われています。
【原因】
膝蓋骨脱臼の原因は先天性と後天性の場合があり、柴犬の場合も遺伝的な要因が関係している場合と後天性の場合では、滑る床での生活や高いところからのジャンプで発症してしまう場合があるようです。
【症状/治療】
膝蓋骨脱臼とは、膝蓋骨(いわゆる膝の皿)が正常な位置からずれたり外れたりしてしまう疾患です。膝蓋骨脱臼の症状は重症度によってグレード1からグレード4の4段階に分けられます。
グレード | 症状 | 治療 |
---|---|---|
グレード1 | 膝蓋骨は正常な位置にあります。膝をまっすぐ伸ばして膝蓋骨を指で押すと脱臼を起こしますが、離すと自然に元の位置に戻ります。 | 投薬などの内科的治療(内服薬の服用、サプリメント、筋肉注射)などで経過観察を行います。 |
グレード2 | 膝蓋骨は通常時は正常な位置にありますが、膝を曲げると脱臼してしまいます。脱臼した膝蓋骨は足をまっすぐ伸ばしたり指で押したりすることで正常な位置に戻ります。日常生活に大きな支障はありませんが、脱臼しているときには足を浮かせて歩いている様子が見られます。 | 基本的に、グレード1と同様の処置ですが、グレード3に移行してしまう場合もあるため注意する必要があります。 |
グレード3 | 膝蓋骨は通常脱臼したままの状態となり、指で押すと一時的に正常な位置に戻りますがすぐにまた脱臼してしまいます。骨の変形が明らかになってきて、脱臼した足を挙げて歩行するなど正常に歩けない様子が顕著となります。 | グレード1、2の治療を行いながら手術を勧められることも多くあります。 |
グレード4 | 膝蓋骨は常に脱臼した状態となり、指で押しても元に戻せません。骨の変形も重度となって膝の関節を伸ばすことができないので、足を曲げてうずくまるような姿勢で歩くなど正常に歩行できないことが多いです。 | 手術が難しい状態となっている場合もあり、その場合は体重管理や生活習慣の見直しなどで悪化を予防します。 |
【予防】
先天的な原因で発症する場合には予防することが困難ですが、後天的な要因でさらに脱臼を起こしやすくしたり重症化させてしまったりさせないようにすることが大切です。
床にカーペットを敷くなどして滑らないようにする、爪切りや足裏の毛のカットで滑らないようにする、高いところからジャンプさせないようにする、高い場所に上ってしまわないように家具の配置に気を付ける、抱っこしたときに落としてしまわないようにする、ドッグランなどで急な方向転換など膝に負担がかかる運動は避けさせる、肥満にならないようにするなど膝に負担をかけないように気をつけましょう。
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股関節形成不全
股関節形成不全は、太ももの骨と骨盤をつなぐ股関節の形が異常な状態になってしまう病気です。股関節形成不全を患う犬は遺伝的な要因で先天性の場合がほとんどです。稀に後天的に発症することがあるようですが、遺伝的なものであれば生後6ヶ月目ごろから徐々に症状が見られるようになり、動物病院で早めに適切な処置を行わなければ歩行不全となってしまう場合もある病気です。
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は柴犬に限らず犬が発症しやすい病気です。甲状腺は喉のやや下あたりの左右にあり、甲状腺ホルモンなどを分泌しています。甲状腺ホルモンは体のエネルギー代謝を始めとして、生命維持に必要なホルモンです。そのため甲状腺機能低下症は体にさまざまな影響を及ぼします。甲状腺機能低下症はその症状が多岐に渡るため病気の特定が難しい場合も多いです。犬では、指標物質としてサイロキシン(T4)を測定して甲状腺機能の基礎値を測定します。原因は遺伝性による甲状腺機能不全や免疫介在性などが考えられます。治療は、投薬での治療になりますが、経過観察を行い投与する薬物の量を調整していくため、甲状腺機能低下症は完治することはなく生涯、甲状腺ホルモンの補充療法を続けることになります。
乳び胸
乳び胸は、胸の中に乳びと呼ばれる腸管由来の脂肪を豊富に含んだリンパ液がたまり肺を健康時のように膨らますことができなくなる病気です。乳び胸は、柴犬がかかりやすい病気の一つで気を付けたい病気です。乳び胸の原因には、外傷や心臓病、腫瘍などが考えられますがほとんどは原因不明で突発的に発症することが多いようです。呼吸困難や咳、食欲不振といった症状を引き起こすため、胸に溜まった液体を抜くといった治療を行う事が一般的です。状態に合わせて、栄養管理や薬物治療といった内科的治療、胸水抜去のための手術を検討しますが、完治しない場合もあります。
高齢性認知機能不全(認知症)
高齢期を迎えた犬も認知症を患う事があります。はっきりとした原因がわかっているわけではありませんが、日本犬は洋犬より認知症になりやすいということが分かっています。柴犬は寿命が長く、日本犬であるという事から老齢期を迎え認知症を発症してしまう事があるようです。トイレの失敗が増えたり、今までしなかった無駄吠えが増えたり、夜鳴きをするようになる、ぐるぐると同じところを歩き回るといった症状があれば認知症の可能性があります。認知症予防のためには、毎日の散歩で運動を欠かさず、散歩のルートを変えるなどできるだけ刺激の多い毎日を送る事が効果的です。
突発性前庭疾患
高齢の犬が発症しやすいとされている病気です。詳しい原因が特定できていない病気ですが、平衡感覚を司る前庭神経に異常が生じることで斜頸や眼振、めまいなど前庭障害の症状が起こる病気です。特別な治療はなく自然回復を待ちます。自然回復が見込める病気ですが、食欲不振や嘔吐など老齢期の体力の低下は回復が困難になりがちです。動物病院の獣医師と相談し愛犬にあった対処法を相談しましょう。
脳疾患/脳腫瘍
脳腫瘍の発生率は人間よりも犬の方が多いとされてるほど、老齢期の犬が疾患しやすい病気です。初期症状として、てんかん発作が見らえることが多いようです。足の麻痺や旋回行動、斜傾など神経症状が見られる場合もあります。愛犬が不審な行動をしている場合などは早めに動物病院を受診しましょう。治療には人間同様に化学療法や放射線治療、外科療法などがあります。動物医療も日進月歩で進歩しているので病気と闘いながら元気に生活している犬もたくさんいます。しかし、放射線治療や外科手術となると医療費も高くなってしまいます。愛犬の老後については元気なうちに考えておく必要がありそうです。
犬の治療費は全額飼い主負担
犬には人間のような公的医療保険はないので、治療費は全額飼い主負担となってしまいます。そのため、長期間の通院が必要になったり入院や手術が必要になったりすると、治療費として数万円、数十万円とかかってしまうこともあります。十分な収入・貯蓄があるので問題なく払えるという場合はよいのですが、そうでないのであればペット保険の加入を検討しましょう。
ペット保険に加入していれば、補償の対象となる診療についてその費用を限度額や一定割合の範囲内で補償する保険です。限度額は通院1日あたりいくら、年間いくらまで、手術1回あたりいくらまでというような形で決められていて、補償割合は50%や70%を選択肢として選べることが多いですが、中には80~100%の補償割合を選択することができるものもあります。例えば、補償割合が70%のペット保険に契約していて、治療費として10,000円かかった場合、保険金を請求することで7,000円受け取れるというような形です(免責金額の設定がある場合はこれより少なくなる場合があります)。
ペット保険の補償割合って何?
ペット保険を選ぶときに大切なものの一つに補償割合があります。人間が入る医療保険ではあまり見かけない項目ですがどのようなものなのでしょうか?ペット保険の補償割合と ...
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ペット保険は基本的に加入できる年齢に上限があり、多くは8歳~12歳で設定されています。また、人間の保険と同じように、病気になったらペット保険には加入しづらくなったりその部位の補償を受けられなくなったりしてしまいます。選択肢が多くなる若くて健康なうちにペット保険の検討をすすめましょう。
高齢のペットでもペット保険に加入・更新できる?
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柴犬のかかりやすい病気をカバーできるかチェック
ペット保険は保険会社によって補償対象となる病気・ケガの範囲が異なります。保険料だけで飛びつかずに、その保険が柴犬がかかりやすい病気をカバーしているのか確認が必要です。また、ペット保険の多くは通院・入院・手術を対象としていますが、多くの費用がかかる入院・手術のみを対象として保険料を安くしているペット保険もあります。しかし、通院が多く必要となった場合にその負担に耐えられるのか、高齢になった後では手術に耐えられるかということも気にかけましょう。
まとめ
犬は犬種によってかかりやすい病気が異なります。柴犬は特にアレルギーによる疾病に注意する必要がありそうです。また、高齢になれば認知症になることも多い犬種であるとされています。たくさんいる犬種の中では比較的長寿と考えられている柴犬ですが、寿命が長いという事はそれだけ老齢期の期間も長いという事になります。老齢期の犬はケガや病気のリスクも高くなり、医療費の負担も多くなる事が予想されます。犬には公的医療保険がないので治療費は全額飼い主の負担となってしまいます。何度も通院が必要になったり、入院・手術が必要になったりした場合には数万円、数十万円といった額がかかることもあります。こうした負担に耐えられそうにないのであれば、ペット保険に加入して自己負担額を抑えることを検討しましょう。